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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)649号 判決

被告人

満平光

外一名

主文

被告人満平光の本件控訴は之を棄却する。

被告人福森稔に対する原判決を破棄し、同被告人に対する本件を津地方裁判所松阪支部に差戻す。

理由

前略

被告人福森稔の弁護人櫻井紀の控訴趣意について。

控訴趣意第三点は原判決第四の判示事実につき事実誤認を主張するに帰する、そこで先づ職権を以て調査するに、原判決は第四の事実として「被告人福森は同年(昭和二十四年)三月二十七日三重縣一志郡久居町二の町丸玉ダンスホールで遊んで居つた中谷民雄に対し『一寸顏を貸して呉れ』と申し前の街路に呼出し金五百円貸せと迫り同人を怖し因つて即時同人より金五百円を受取り喝取し」と摘示している。一体恐喝罪に於ける恐喝は害惡を通告して相手方を恐怖せしめることを謂うのである。そこで相手方に與えた恐怖の体樣を具体的に示すことを要するのであるが、その体樣は通告した害惡の内容によつて自から明かな場合もあり、又害惡の内容は明示的でなく、犯人の性行、経歴、身分、職業等と相俟つてその通告が相手方に恐怖を與える場合もある。後者にあつては相手方に如何なる恐怖の念を起さしめたかを具体的に説明しなければ罪となるべき事実の摘示として十分でない。前示原判決の説示は被告人福森稔が中谷民雄に対し顏を貸して呉れとてダンスホールより街路に呼出し金五百円貸せと迫つたとしてあるのみでこれ丈では害惡の内容が明示的ではないから若し中谷民雄がそれに恐怖したとするならばどのように畏怖したか具体的に説明されなければならない。然るに原判決は單に「同人を怖し」と説示してあるのみであるから恐喝罪の事実摘示として理由不備の違法があるといわなければならない。而して右事実は他の判示事実と共に刑法第四十五條前段の併合罪の関係に於て裁判せられたのであるから被告人福森稔に対する原判決は此の点に於て全部破棄を免れない。仍て他の控訴理由に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百七十八條第四号第三百九十七條第四百條本文に則り被告人福森稔に対する原判決を破棄、同被告人に対する本件を原審に差戻すべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

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